新幹線の車窓は素晴らしいか?唐突にこうきいても恐らく誰も相手にしてくれないだろう。目障りな防音壁、車窓を妨げる長大なトンネルの連続。無味乾燥で画一的な駅。旅情とは一番遠いところにあるのは自明のようだ。ところが、秋田新幹線「こまち」が東北新幹線「はやて」と盛岡で切り離され、身軽になると事情は一変する。まず、列車はそれまでの高架線から地上に降りてしまう。視界をさえぎるフェンスもなくなり、遠くから見下ろすような視線ではなく、すぐ隣を見るような普通の目線で車窓が楽しめる。最初は眼前を家並みが矢継ぎ早に流れていくのに少々戸惑うが、人家がまばらになるにつれて、田園風景がゆったりと流れていくのにむしろホッとする。これはまさに在来線の列車から見るのと同じ感覚である。通称「秋田新幹線」はむしろ「誇大広告」なのであり、JR田沢湖線を走っているというのが正確だ。その証拠に、踏切はあるし、各駅停車しか停まらない小さな駅もある。さらに単線でもある。普通の在来線と違うところは、新幹線を走る車輛が直通できるように線路幅を標準軌に広げた点だ。ときは春のゴールデンウィーク。「こまち」に乗って北東北の花見に出かけた。車窓から眺めると桜並木の脇で鯉のぼりが爽やかに空を泳いでいる。この組み合わせは北国ならではだ。右手には、まだ山頂付近に残雪をとどめた岩手山が望まれる。対向列車との待ち合わせのため雫石で停車したあと、列車はのんびりとしたテンポで次第に山の中に分け入っていく。エメラルドグリーンの水をたっぷりとたたえた志戸前川が林の間に見え隠れするうちに、トンネルをいくつもくぐり抜けていく。長い仙岩トンネルに入るとむしろスピードを速めて、ここだけは新幹線らしい走りっぷりだ。